混沌(こんとん)とする国際情勢、とどまるところを知らないテクノロジーの進展……。様々な変化に対応しながら、新たなビジネスの開拓、展開を試みるのが総合商社だ。不透明な時代を生き抜くヒントとは何か。就活生の人気企業調査で6年連続1位、業績で今期も業界首位をうかがう商社のトップ、伊藤忠商事の岡藤正広会長CEO(75)には、人生や判断を支える一つの「言葉」がある。
巨大商社のかじを握って15年。自身は入社後、繊維部門に配属され、駆け出しは「受け渡し業務」を担当した。輸入毛織物などを問屋に引き渡し、代金を回収する。取引先との契約をきちんと履行することが求められる仕事で、商いのイロハを学ぶ時期だった。ところが当時の繊維業界は、一筋縄ではいかなかった。
「問屋もテーラーも当時の業界全体がルーズで」。契約したはずの支払いや引き取り期日が守られない。「そんなんだめでしょう」。そう言い続けるうち、得意先からクレームが入り、上司や同僚、営業担当からは疎まれ始めた。入社2年目には営業職に移るのが通常だったが、3年ほどが経過。「なかなか周囲と折り合いがつかなくなって。上司や先輩からもだめだと言われ、やっていけないんじゃないかと」。心底落ち込んだ。
「今に懸命になるべき時がある」
ある日の夕方。生地サンプルを持ち、大阪市内の得意先問屋を訪ねた。顔見知りではなかったが、帰り際に番頭格の常務が酒場へ誘ってくれた。「何か悩みがありそうだと。勘が良くて、ピンと来たんでしょうな」
常務は15歳年上で当時は4…